歯医者で顔の写真を撮るのはなぜ?|歯科診療における顔貌写真の意味と重要性
2026年9月2日
城東区にある歯科・歯医者のしぎの歯科の院長 舩戸です。
歯科医院で診査を受けた際に、
「お口の写真だけではなく、顔の写真も撮るんですか?」
と思われた経験のある方もいらっしゃるかもしれません。
当院においても、矯正治療や審美治療、全体的な噛み合わせを見る際に
顔貌の写真を撮影させていただき診断に利用をさせていただいております。
歯の治療をするのだから、歯だけを見れば十分ではないかと思われるのも自然なことだと思います。
しかし私たち歯科医師が診査・診断を行うとき、実際には一本の歯だけを見ているわけではありません。
歯並びや噛み合わせ、上下の顎の位置、口元、唇、そして顔全体とのバランスまで含めて診ることがあります。
特に矯正治療、前歯の審美治療、多数の歯を治療する全顎的な治療、噛み合わせを再構築する治療などでは、**「歯をどのように治すか」だけではなく、「治療した歯がその患者さんの顔の中でどのように見えるか」**という視点も大切になります。
そのために重要な診査資料の一つが、今回ご紹介する**「顔貌写真(がんぼうしゃしん)」**です。
顔貌写真とは?
顔貌写真とは、歯科治療の診査・診断を目的として撮影する顔の写真です。
一般的には、
・正面から見た顔
・横から見た顔
・自然な表情
・笑ったときの表情
などを一定の条件で撮影します。
治療内容によっては、さらに角度や表情を変えた写真を追加することもあります。
大切なのは、顔貌写真は単なる「記念写真」ではないということです。
私たちにとっては、レントゲン写真や口腔内写真などと同じように、患者さんの現在の状態を記録し、診断するための大切な資料の一つです。
なぜ歯科治療で「顔」まで見るのでしょうか?
歯は、顔から独立して存在しているわけではありません。
例えば前歯を考えてみます。
前歯の形そのものがきれいでも、
・顔の中心と歯の中心が大きくずれていないか
・笑ったときに前歯がどのくらい見えるか
・唇と歯の位置関係はどうか
・前歯の傾きは顔貌と調和しているか
などによって、受ける印象は変わります。
つまり、
「きれいな歯をつくること」と「その人の顔に調和した歯をつくること」は、必ずしも同じではありません。
私たちは口の中を非常に近い距離から見ています。
しかし患者さんご自身や周囲の方が普段見ているのは、歯だけではなく「顔全体の中にある口元」です。
だからこそ、口腔内だけを見るのではなく、一度視点を引いて顔全体から評価することが大切になります。
① 顔の中心と歯の中心を確認する
顔貌写真から得られる情報の一つが、顔の正中と歯列の正中との関係です。
簡単にいうと、
「顔の真ん中に対して、前歯の真ん中がどこにあるのか」
を確認します。
人の顔は完全な左右対称ではありませんので、単純に一本の線だけを基準にすればよいわけではありません。
鼻、口唇、顎など、複数の情報を確認しながら顔貌全体との調和を評価していきます。
特に前歯の審美治療や矯正治療では、こうした情報が治療計画を考えるうえで重要になります。


② 歯の傾きと顔とのバランスを見る
次に確認したいのが、歯列や前歯の傾きです。
口腔内だけを見ていると気付きにくいわずかな傾きでも、顔全体の写真で見ると分かりやすくなることがあります。
前歯の先端を結んだラインや、歯の長軸、口唇との関係などを顔貌と合わせて評価します。
ここでも重要なのは、「完全に左右対称にすること」が目的ではないということです。
もともとの骨格や顔貌には一人ひとり個性があります。
そのため、数値だけを機械的に合わせるのではなく、その患者さんの顔貌の中で自然に見える位置を考えることが大切だと思っています。
③ 笑ったときの「歯と唇」の関係を見る
顔貌写真の中でも、特に多くの情報を得られるのが**笑顔の写真(スマイル写真)**です。
人が笑ったときには、
・前歯がどの程度見えているか
・歯ぐきがどの程度見えるか
・上唇のラインはどうか
・左右で唇の上がり方に違いがあるか
・前歯の先端と下唇のラインがどのような関係にあるか
など、さまざまな情報を見ることができます。
前歯は、口を閉じた状態だけで評価するものではありません。
会話をしたり、笑ったりしたときにどのように見えるかも非常に重要です。
特に前歯の被せ物やラミネートベニア、インプラント、矯正治療などでは、こうした**「動いたときの口元」**まで考える必要があります。


④ 横顔から骨格や口元を評価する
正面だけでなく、横顔の写真も大切な診断資料です。
横顔を見ることで、
・上下の顎の前後的位置関係
・口元の突出感
・鼻、唇、顎のバランス
・前歯の位置と口元との関係
などを評価することができます。
もちろん、顔貌写真だけで骨格を診断するわけではありません。
必要に応じてセファログラムなどのレントゲン写真を撮影し、骨格や歯の位置を数値的にも分析します。
しかし、数値だけではなく実際の患者さんの顔貌としてどのように見えているのかを確認することも大切です。


⑤ 「噛む高さ」を考えるときにも顔貌は大切
多数の歯を治療する場合や、歯のすり減りが大きい場合、総入れ歯治療などでは、**咬合高径(こうごうこうけい)**を評価することがあります。
咬合高径とは、簡単にいうと「上下の歯が噛み合ったときの顔の高さ」です。
噛み合わせが長年の摩耗などによって低くなっている場合、口元の印象にも変化が現れることがあります。
反対に、高さを上げればよいという単純なものでもありません。
以前、BPSデンチャーについてのブログでもご紹介したように、咬合高径を考える際には安静位や発音など、さまざまな情報を参考にします。
そこに、
「顔貌として自然な高さなのか」
という視点も加えて評価します。
噛み合わせは、口の中だけの問題ではなく、口元や顔貌とも関係しているからです。
⑥ 治療前の状態を「記録」として残す
顔貌写真には、診断だけでなく記録としての大切な役割もあります。
治療が進むと、治療前の状態には戻れません。
そのため治療を始める前に、
「最初はどのような状態だったのか」
をきちんと記録しておくことが重要です。
特に長期間にわたる矯正治療や全顎的な治療では、治療前と治療後を比較することで、歯だけでなく口元や顔貌にどのような変化があったのかを確認できます。
また、歯科医師自身が治療結果を振り返るためにも重要です。
写真を撮ることは、現在を記録すると同時に、未来の診療に生かすための資料を残すことでもあります。
⑦ 患者さんと治療のゴールを共有するために
写真のもう一つの大きなメリットは、患者さんと情報を共有しやすいことです。
鏡で口の中を見るだけでは、歯並びや口元全体の状態を客観的に確認するのは難しいものです。
しかし写真にすると、
「前歯はこの位置にあります」
「笑うとこのくらい歯が見えています」
「顔の中心と歯の中心にはこのような関係があります」
と、同じ資料を見ながらお話しすることができます。
歯科医師だけが診断内容を理解しているのではなく、患者さんにも現在の状態を知っていただき、どこを治療のゴールにするのかを一緒に考える。
そのためのコミュニケーションツールとしても、顔貌写真はとても有用です。
顔貌写真だけで診断するわけではありません
ここで大切にしておきたいことがあります。
それは、
「顔貌写真だけを見て治療方針を決めるわけではない」
ということです。
歯科治療の診断には、
口腔内診査、歯周組織の検査、口腔内写真、レントゲン写真、CT、模型やデジタルスキャン、噛み合わせ、顎の動き、そして顔貌写真など、さまざまな資料があります。
一つひとつの資料には、それぞれ違った情報があります。
大切なのは、どれか一つだけを見るのではなく、
「複数の情報を重ね合わせて、その患者さんのお口全体を理解すること」
だと考えています。
「一本の歯」から「一人の患者さん」を見る
日々の診療では、痛みのある一本の歯を治療することももちろん大切です。
しかし、治療内容によっては、一本の歯だけを見ていては十分な診断ができないことがあります。
一本の歯を見る。
歯列全体を見る。
上下の噛み合わせを見る。
顎の位置を見る。
そして最後に、顔全体の中で口元を見る。
視野を少しずつ広げることで、初めて見えてくることがあります。
顔貌写真を撮影する意味も、そこにあります。
「歯を診る」だけではなく、「その歯を持つ一人の患者さんを診る」。
私自身、診査・診断において大切にしている考え方の一つです。
より良い診断のために、必要な資料を残す
患者さんからすると、診療前にいろいろな写真を撮影することを少し不思議に感じられるかもしれません。
しかし、私たちが口腔内写真や顔貌写真を撮影するのは、写真を撮ること自体が目的ではありません。
現在の状態をできるだけ正確に把握し、患者さんと共有し、より良い治療計画につなげるためです。
そして治療後には、治療前の資料と比較し、
「今回の治療はどうだったのか」
「今後どこを見ていかなければならないのか」
を考える資料にもなります。
これからも、一本の歯だけではなく、お口全体、噛み合わせ、そして顔貌まで含めて診ることを大切にしながら、患者さん一人ひとりに合った診査・診断、治療計画につなげていきたいと思います。







