「アナログ印象とデジタル印象」について講義・実習を担当しました
2026年9月18日

8月に開催された、臨床器材研究所主催の日本口腔インプラント学会認定講習会にて、
「アナログ印象とデジタル印象」
というテーマで講義と実習を担当させていただきました。
今年から担当させていただく新しいテーマということもあり、どのような内容をお伝えすれば実際の臨床に役立つのか、最後まで考えながらスライドを作成しました。
準備はギリギリまで苦戦しましたが、人に伝えるために資料を整理することで、自分自身の知識や日々行っている臨床をもう一度見直すことができます。
今回も、私自身がたくさん学ばせていただくありがたい時間となりました。
インプラント治療に欠かせない「印象」という工程
インプラント治療というと、インプラントを骨の中に埋入する手術に注目されることが多いと思います。
しかし、インプラントを埋入すれば治療が終わるわけではありません。
最終的には、そのインプラントの上に上部構造と呼ばれる人工の歯を装着し、患者さんが噛める状態にする必要があります。
その上部構造を製作するために非常に重要になるのが、
「印象採得」
という工程です。
簡単にいうと、インプラントや周囲の歯、歯肉などの位置や形態を正確に記録し、その情報を歯科技工士へ伝える工程です。
どれだけインプラント手術が適切に行われても、最終的な上部構造を製作するための情報が正確に伝わらなければ、質の高い補綴装置にはつながりません。
従来から行われてきた「アナログ印象」
従来のインプラント治療では、シリコーン印象材などを使用してお口の型を取り、そこへ石膏を流して模型を製作するアナログ印象が広く行われてきました。
インプラントの位置を模型上へ正確に再現するために専用の印象用パーツを装着し、印象を採得します。
長年使用され、さまざまな研究や臨床経験が蓄積されてきた非常に重要な方法です。
一方で、アナログのワークフローには、
印象採得
↓
印象材
↓
石膏模型
↓
技工操作
という複数の工程があります。
それぞれを適切に行う必要があり、印象材や石膏の変形・寸法変化、操作など、各工程に誤差が生じる可能性があります。
そこで近年、急速に普及してきたのが口腔内スキャナー(IOS:Intraoral Scanner)を使用したデジタル印象です。
口腔内スキャナーによる「デジタル印象」
デジタル印象では、従来のように印象材でお口の型を取る代わりに、専用の口腔内スキャナーを使って歯や歯肉などを直接スキャンします。
インプラントの場合には、スキャンボディと呼ばれる専用のパーツをインプラントに装着し、その位置情報をデジタルデータとして記録します。
取得したデータはコンピューター上で確認することができ、そのままデジタルデータとして歯科技工士へ共有できます。
この方法では、従来のワークフローに含まれていた印象材や石膏模型などの工程を省略できるケースがあります。
その結果、複数の工程で生じ得る誤差要因を減らしながら補綴装置の製作へつなげられる可能性があります。
また、患者さんにとっても、大きなトレーと印象材を口の中に入れて長時間待つ必要が少なくなるなど、負担を軽減できることがあります。
「デジタルだから正確」とは限らない
ただし、今回の講義で大切にしたかったことの一つが、
「デジタルを使えば、必ず正確になるわけではない」
という点です。
口腔内スキャナーにも、その特徴や限界があります。
スキャンする範囲、インプラントの本数や位置関係、お口の中の状態、使用するスキャンボディ、スキャン方法など、さまざまな要因が最終的な精度に影響します。
特に多数のインプラントを連結するような症例では、単独の歯をスキャンする場合とは違った注意が必要になります。
だからこそ、
「アナログかデジタルか、どちらが優れているか」
という二者択一で考えるのではなく、
「この症例では、どの方法を選択することが適切なのか」
と考えることが重要だと思っています。
今でも大切な「ベリフィケーションインデックス」
デジタル技術が進歩した現在でも、アナログの考え方から学ぶことはたくさんあります。
今回の講義では、その一つとして**ベリフィケーションインデックス(verification index)**についてもお話ししました。
複数のインプラントを利用した補綴治療では、模型やデジタルデータ上に再現されたインプラントの位置関係が、本当に患者さんのお口の中と一致しているのかを確認することが非常に重要です。
そのための検証方法の一つがベリフィケーションインデックスです。
新しいデジタル技術が登場すると、どうしても、
「これまでの方法は必要なくなるのではないか」
と思いがちです。
しかし私は、新しい技術を学ぶほど、これまでアナログで大切にされてきた考え方を理解しておくことが重要になると感じています。
デジタルで取得したデータを、そのまま無条件に信じるのではなく、
「このデータは本当に正しいのか」
「どのように確認すればよいのか」
という視点を持つことが大切です。
デジタルの大きなメリットは「データを重ねられること」
私自身がデジタルデンティストリーの大きな可能性だと感じていることの一つが、
異なるデジタルデータを重ね合わせられること
です。
これを**superimpose(スーパーインポーズ)**と呼びます。
例えば、
CTのデータ、口腔内スキャンのデータ、そして治療前に設計した最終的な歯のデータなどを重ね合わせることで、
骨・歯・歯肉・インプラント・最終補綴装置
の関係を同じ画面上で確認できるようになります。
これは、インプラント治療の考え方にも大きく関係します。
最終補綴から逆算してインプラント治療を考える
インプラント治療の目的は、
インプラントを骨の中に入れることではありません。
最終的に患者さんがしっかり噛むことのできる歯をつくり、その状態をできるだけ長く維持することが目的です。
そのため私自身は、
最終的にどこに歯をつくりたいのか
↓
その歯を適切に支えるためにインプラントはどこに必要なのか
↓
その位置に対して骨や歯肉はどのような状態なのか
と逆算して考えることを大切にしています。
事前に設計した補綴装置のデータとCTや口腔内スキャンの情報を重ね合わせることで、この考え方をより視覚的に確認できるようになりました。
そして治療後にもデータを重ね合わせることで、計画と実際の治療結果を振り返ることができる可能性があります。
デジタルの価値は、単に「型取りが楽になる」ということだけではないのだと思います。
診査・診断から治療、そして最終補綴まで、一連の情報をつなげていけること。
そこに大きな可能性を感じています。
今回はPrimescanを用いて実習
今回の実習では、デンツプライシロナ様にご協力いただき、**Primescan(プライムスキャン)**を実際に使用しながら口腔内スキャナーによる印象採得を体験していただきました。
口腔内スキャナーは、ただ機械を歯に向ければよいわけではありません。
どこからスキャンを開始し、どのような順番で動かし、データが欠けている部分をどう確認するのか。
実際に操作してみることで初めて分かることがあります。
今回は講義を聞くだけではなく、実際に機器に触れていただくことで、参加された先生方が明日からの臨床を考えるきっかけになればと思い、実習を行いました。
ご協力いただきましたデンツプライシロナの皆様にも、改めて感謝申し上げます。
アナログを理解したうえで、デジタルを使う
今回のテーマを準備しながら、私自身が改めて感じたのは、
「アナログかデジタルか」ではなく、「両方を理解して使い分けること」が大切
だということです。
デジタル技術はこれからも進歩していきます。
今は難しいと考えられている症例でも、数年後にはデジタルが当たり前になっているかもしれません。
だからこそ新しい情報を学び続ける必要があります。
一方で、これまで先人の先生方が積み重ねてきた印象採得の基本や、正確性を確認するための考え方まで失ってはいけないと思っています。
新しい技術をただ取り入れるのではなく、
なぜその方法を使うのか。
どこにエラーが生じる可能性があるのか。
どのように確認するのか。
そこまで理解して、初めて患者さんの治療へ還元できるのではないかと思います。
「伝えること」で、自分自身も学ばせていただく
今回の「アナログ印象とデジタル印象」は、今年から始まった新しい講義テーマでした。
そのためスライドづくりも、最後の最後まで悩みました。
何を残して、何を削るのか。
限られた時間の中で、何を一番持ち帰っていただきたいのか。
考えながら資料をつくる作業は大変ではありますが、同時に、自分自身の臨床を整理する非常にありがたい時間でもあります。
人に伝えるためには、自分自身が理解していなければならない。
講義をさせていただくたびに感じることです。
今回の内容が、参加された先生方にとって、これからのインプラント印象やデジタルワークフローを考えるうえで、何か一つでも参考になれば嬉しく思います。
私自身も今回で完成とするのではなく、臨床やデジタル技術の変化を学びながら、来年はさらに内容をアップデートして講義に臨みたいと思います。
ご参加いただいた先生方、そして実習にご協力いただきましたデンツプライシロナの皆様、ありがとうございました。







