BPSデンチャーとナソメーター|「機能している状態」を記録して総入れ歯をつくる
2026年10月7日
目次
城東区にある歯科・歯医者のしぎの歯科の院長の舩戸です。
前回は、BPSデンチャーにおけるセントリックトレーを用いた咬合高径(噛む高さ)の考え方についてご紹介しました。
今回はその続きとして、BPSデンチャーの製作過程で使用する**「ナソメーター(Gnathometer)」**についてお話ししたいと思います。
ナソメーターを使用する大きな目的の一つは、
「義歯を実際に使っている時に近い状態を考えながら、印象と顎位を記録すること」
にあります。
総入れ歯では、単に歯のない顎の「形」を正確に採るだけでは十分ではありません。
食事をする。
噛む。
話す。
口を開ける。
口を閉じる。
そうした日常のさまざまな機能の中で義歯は使用されます。
そのためBPSデンチャーでは、**「形を記録すること」と「機能を記録すること」**の両方を大切にしています。
通常の印象と「機能している時」のお口は同じではありません
義歯を製作する際には、まず患者さんのお口の中の「型」を採ります。
これを印象採得といいます。
一般的な印象採得では、患者さんにお口を開けていただき、顎堤や粘膜などの形態を記録します。
しかし、ここで考えなければならないことがあります。
それは、
「お口を開けている時と、実際に義歯を使って噛んでいる時では、義歯を支える粘膜の状態がまったく同じとは限らない」
ということです。
歯が残っている場合、噛む力は主に歯を介して骨へ伝わります。
一方、総入れ歯の場合は、義歯床を介して粘膜やその下の組織が噛む力を受け止めます。
そのため噛んだ時には、粘膜に圧が加わり、その状態が変化します。
つまり、
静かに口を開けた状態で採った粘膜の形と、実際に義歯を使って機能している時の粘膜の状態には違いが生じる可能性があります。
この違いをどのように義歯製作へ反映するか。
これは、義歯の安定や装着後の快適性を考えるうえで重要なポイントになります。
「噛んだ時」の状態を考えながら印象する
BPSデンチャーでは、ナソメーターなどを用いて、患者さん自身に噛んでいただいた状態で印象採得を行う方法があります。
いわゆる機能圧を考慮した印象採得です。
義歯を実際に使用する時に近い条件をつくりながら、義歯を支える粘膜や周囲組織の状態を記録していきます。
また印象採得の際には、ただ噛んでじっとしていただくだけではありません。
お口を開ける。
閉じる。
唇や頬を動かす。
舌を動かす。
発音する。
飲み込む動作をする。
など、必要に応じてさまざまな運動をしていただきます。
これは、日常生活で義歯を使っている時のお口の動きを、できるだけ印象へ反映させるためです。
義歯は「止まっている時」だけ使うものではない
ここは、患者さんにもぜひ知っていただきたい部分です。
義歯は、お口の中に置いているだけのものではありません。
食事をすれば顎が動きます。
話をすれば舌や唇、頬が動きます。
飲み込む時にも、お口の周囲の筋肉は動きます。
つまり、義歯の周囲では一日の中でさまざまな組織が動いています。
そのため義歯の形態を考える時には、
「静止しているお口に合っているか」だけではなく、「動いた時にも周囲の組織と調和できるか」
という視点が重要になります。
義歯の縁が長すぎれば、口を動かした時に周囲の組織とぶつかり、義歯が浮き上がる原因になることがあります。
反対に必要な部分が不足すれば、義歯の維持や安定に影響することがあります。
だからこそ、実際のお口の動きを利用しながら形をつくっていくことには大きな意味があります。
「痛い」「動く」「外れやすい」を少なくするために
総入れ歯で患者さんからよくお聞きする悩みには、
「噛むと痛い」
「食事をすると義歯が動く」
「話していると浮いてくる」
「外れやすい」
といったものがあります。
もちろん、その原因は一つではありません。
顎の骨の形態。
粘膜の状態。
唾液。
義歯の形。
噛み合わせ。
人工歯の位置。
顎の動き。
筋肉との関係。
さまざまな要素が関係します。
したがって、機能圧印象を行えばすべての問題が解決する、というわけではありません。
しかし、実際に義歯が使われる環境を考えながら印象を採ることは、より安定した義歯を目指すうえで大切な要素の一つだと考えています。
印象と「噛む位置」を同じ流れの中で考える
ナソメーターを使用するもう一つの特徴が、印象採得と顎位の記録を関連づけながら進められることです。
一般的な総入れ歯製作では、
精密な印象を採る。
模型を製作する。
その後、咬合床などを用いて噛む高さや位置を記録する。
というように、複数のステップを経ていきます。
BPSデンチャーでは、症例や術式に応じてナソメーターを利用することで、精密印象と顎位の記録を効率的に関連づけて進めることができるのも特徴の一つです。
工程を単純に減らすことだけが目的ではありません。
「義歯を支える組織の状態」と「患者さんがどの位置で噛むのか」を関連づけながら考えられることに意味があります。
ゴシックアーチで「噛む位置」を確認する
そしてナソメーターを使用した工程では、ゴシックアーチ描記を行うことができます。
ゴシックアーチについては以前の記事でもご紹介しましたが、患者さんに下顎を前後・左右へ動かしていただき、その運動軌跡を記録する方法です。
その描記によって得られるアペックス付近で、患者さんに繰り返し開閉口、つまりタッピングをしていただきます。
すると描記板上に複数の点が記録されます。
これがタッピングポイントです。
ここで大切なのは、
「アペックスだから正しい」
「タッピングポイントだから必ず正しい」
と機械的に判断するわけではないということです。
アペックスとタッピングポイントの位置関係や再現性、患者さんの顎の動き、筋肉の状態などを確認しながら、その患者さんにとって安定した顎位を検討していきます。
ゴシックアーチは、歯がない状態から噛み合わせを再構成する総入れ歯治療において、水平的な顎位を考えるための重要な情報の一つになります。
「高さ」と「前後左右の位置」の両方を考える
前回の記事では、セントリックトレーを用いて咬合高径=噛む高さを考えることをご紹介しました。
しかし、噛み合わせは高さだけでは決まりません。
上下的にどの高さで噛むのか。
そして前後左右のどの位置で噛むのか。
この両方を考える必要があります。
BPSデンチャーでは、
セントリックトレーなどを利用して、まず大まかな上下顎関係を把握する。
その後、精密印象を行う。
咬合高径を再評価する。
さらにゴシックアーチを用いて水平的な顎位を検討する。
このように、いくつかの情報を重ねながら、患者さんに適した噛み合わせを探していきます。
総入れ歯は「歯がないところから噛み合わせをつくる」治療
天然歯が残っていれば、その歯の位置や噛み合わせを一つの参考にできます。
しかし総入れ歯の場合は、基準となる歯がありません。
どの高さにするのか。
どこで噛んでもらうのか。
どこに人工歯を並べるのか。
どのような形の義歯にするのか。
一つひとつを考えながらつくる必要があります。
だからこそ私自身、総入れ歯治療では、
「形を記録すること」と「機能を記録すること」
の両方が大切だと考えています。
ナソメーターを用いた工程は、その考え方を実際の義歯製作へ落とし込むための大切なステップの一つです。
次回は「人工歯の試適」について
ここまで、
セントリックトレーによる予備的な顎間関係の記録
↓
機能を考慮した精密印象
↓
咬合高径の確認
↓
ゴシックアーチによる水平的顎位の検討
と、BPSデンチャーにおける流れをご紹介してきました。
しかし、ここでいきなり完成した義歯が入るわけではありません。
次に大切になるのが、人工歯の試適です。
実際に人工歯を並べた状態を患者さんのお口に入れ、
噛み合わせはどうか。
歯の見え方はどうか。
口元との調和はどうか。
発音に問題はないか。
などを確認していきます。
次回は、ナソメーターを用いた工程のその先、**「BPSデンチャーにおける人工歯の試適」**についてご紹介したいと思います。








